医学専門 校閲者・翻訳者/医療啓蒙

翻訳初心者が英訳で想起しにくい表現


日本人が英語で医学論文を書く、または医薬翻訳者が和文英訳をするとき、原文の日本語を意識しすぎてしまうことはありませんか。そのようなときには想起しにくいと思われる英語表現を、参考までに若干並べてみました。

・emerging evidence:「最近の」=recentだけではなく、こういう表現もある。

・evidence:「科学的根拠」「研究論文」以外にも「検査所見」という意味でも出てくる。例)electrocardiographic evidence。翻訳会社の英文和訳では「心電図エビデンス」などのように訳される場合か稀ならずあるが、日本語ではこのような言い方はしない。

・heterogeneous:「不均一」「多様な」という感じだが、想起できないと中高生英語でvariousと書きなくなるかもしれない。

・less likely to/ least likely to: more likely toを英作文でも書ける人でも、こちらの表現まで必要時に想起できるだろうか。

・disproportionately, predominantly,predilection: 好発年齢、性差、人種差などの文脈で出て来る。単語を知っていても実際に作文で使うとなると難しいかもしれない。

・preclude:「〜のために----できない」はnot〜because----以外にもこういう表現がある。

・at the cost of:「有効性は高くなるが、その代わりに副作用も多くなる」という感じの文脈でよく出てくる。But, Howeverで文章をつなぐ以外にも、こういう書き方がある。

・nevertheless, nonetheless。「それにもかかわらず」という英単語を知らないと、"despite it"のような作文をしたくなる。実際に某翻訳会社の翻訳サンプルで見かけた記憶がある。

・fulfill:「全ての条件を満たす」という文脈で出てくることが多い。知らないと「全て」を"all"という単語を使って訳したくなりそう。

・fully:「完全に」という意味があるが、"not fully  understood/ evaluated"のような作文例もみられる。日本語としては「十分には分かっていない/評価されていない」と感じだろうか。和文英訳のとき「十分には」という語句を意識すると not enoughなどと書きたくなりそう。

・mixed results/ conflicting results:「異なる結果」の「異なる」にはdifferent以外にこういう言い方もある。

・abrogate

・negate

・hamper

・extrarenal等、intraやextraを接頭辞とした単語

・superior/inferior:「優れる」、「劣る」と言われればこれら表現を想起できても、「よりよい」「より悪い」と言われるとbetter, worseしか想起できない人がいそう。

・visualized:画像診断で「描出されている」という意味でよく出てくる。「認められた」=observedだけではなく、他の作文手法も知っておきたい。

・concomitant disease

・commercially available「市販の」

・abundant/ scant cytoplasm:病理組織所見において「細胞質が豊富/少ない」。知らない、または思いつかないとmuch, smallなど中学、高校英語で書く人がいそう。

・paucity of〜:「少ない」というときにはこういう表現もある。例: a paucity of data。逆の意味「多い」「過剰」を表す単語としてはplethoraがある。こちらの単語も論文でときどき見かける。

・episode: 「発作」「症状が出現した"エビソード"」とでも言えるだろうか。英文医学雑誌のホームページの検索機能を使って例文をみて戴きたい。