医学専門 校閲者・翻訳者/医療啓蒙

翻訳会社求人情報の注意事項


<医薬翻訳者募集の実態>
翻訳会社のホームページでは大抵の場合、翻訳者を常時募集、随時募集しています。しかしながら誤解を招く表現も多く、ここで注意を喚起したいと思います。

要点を先にまとめてしまえば、
・求人に応募して登録されても仕事は全くないか、ほとんどありません。
・労働に対する報酬はとても低い事が多いです。
翻訳会社との取引は、ほとんど収入源として期待できません。


☆ 「急募」「至急募集」「緊急募集」などの表現
  本当の急募は少ないものです。特に翻訳会社ホームページでの急募はそうです。「急募をして対応しなければならない、何か注文が入っているのですか?」と応募時やその前準備として質問してみると分かります。 誤解のないように述べておきますが、もちろん本当の急募もあります。しかし安い労働賃金で不平も言わずに丁寧な仕事をしてくれる有能な人が定着しないので、求人をしている会社が多いみたいです。常に「急募」している翻訳会社が私の知るだけでも何か所かあります。常時募集だったのに気が付くと「NEW」という文字が併記されている会社もありました。
 あたかも注文がきていてそれに対応できる人材を急いで探しているかのような求人に問い合わせをしてみると無回答で、回答を催促すると質問には答えないままで、さらに「履歴書をまだいただいていません」とだけ回答を書いてくる会社もありました。
 常に急募をしている会社と取引したこともありますが、相手の対応を見ていると継続して取り引きしてくれる翻訳者は少ないだろうと思ってしまいます。

☆「業務拡大のため翻訳者募集」
 これも応募者を増やすための常套表現です。

☆個人情報をだまし取っている????
 募集フォームに記入して応募しても、あるいは履歴書を送っても全く音沙汰なし、返答を催促しても無視という会社がとても多いです。それ以外にも「ホームページ上では求人をしたままだが、今ではもう募集をしていない」という会社もありました。あまりに詳細な個人情報を最初から提供するのではなく、何か問い合わせをしてから履歴書等送るようにした方が安全です。

☆トライアルの結果通知
 採用試験の課題文翻訳(トライアル)に応じても、その結果を通知してこない会社は多いです。通知を催促すると「応募者多数で時間がかかった」などの言い訳がされます。その理由が本当かは疑問です。また、募集期限があったのに、それをしばらくすぎてから結果通知を催促したら「一定数の応募が来るまで通知はしなかったので、通知が遅れた」という言い訳をしていた会社もあります。募集期限を過ぎたら応募は来ないですよね。
 結果通知に1-2か月かかるという説明もおかしいと感じられます。応募者の多くは実務水準以下で、わずか数分で審査対象から外せます。一定水準に達している人をより詳細に審査しても、トライアル程度の分量の訳文をみるのにたいして時間はかかりません。求人サイトに募集を出して一度に多数の人が応募してくるのでなければ、審査結果を出すまでに要する日数は短いはずです。
 また応募した翻訳会社に医療関係の文章をきちんと読める人がいない場合、適切な訳文を書いても不合格になることがあります。それどころか原文を書いた人でなければ具体的な意味が分からない文章や、長文のうちの一部のみを数行読んだだけでは意味は分からないのに、そんな文章を訳させる会社もあります。
 無償のトライアルに応じるのは時間と労力の無駄。すべて断るくらいの強気がよいです。それで選考対象からはずす会社は、翻訳者の側から取引を断りましょう。仕事は来ないのに、そしてトライアルと称してただ働きさせる会社もあることを考えると、トライアルには応じないことにするのが安全です。ただトライアルを断るだけでは翻訳力判断の材料がなくなるので、訳文見本などを用意するなどした方がよいでしょう。

☆翻訳会社求人応募時の確認事項
(1)新規登録者に仕事を一定期限内に回している割合。
   一件の仕事も新規登録者に回していない会社が多いです。「注文状況により異なるので新規登録者に仕事を回すのは難しい」「すでに登録している人との兼ね合いで仕事を保証できない」などの説明をしてきます。

(2)登録翻訳者の実働率
  登録翻訳者のうち一定間隔で仕事をしている人の割合。これを聞くと、自分に仕事が回る可能性は低いことが分かります。

(3)賃金の振込手数料負担
  翻訳会社ではなく翻訳者自身の負担する会社は、労働賃金も低く設定していたりします。

(4)トライアルの分量
 採用試験の課題文翻訳、いわゆるトライアルの分量も正式応募前に聞いておくとよいです。和訳、英訳のそれぞれで原稿用紙2-3枚程度の訳文をみれば一応の能力判定はできます。あまりに訳文の分量が多く、提出期限が定められている場合には、実在の注文をただ働きさせているおそれがあります。実際にその疑いがもたれる例を経験しています。
 トライアルを装った無償労働に注意しましょう

(5)労働賃金
 「和訳1枚につき1200円からのスタートでよければトライアルを送ります」という説明に対し、「スタート」ならよいが「固定」では困ると返事をしたら無回答の会社がありました。このように労働賃金をごまかす会社もありますから、少なくともこの程度は払うという最低線の額などはしっかりと質問しておきましょう。仕事をしてもらうための求人らならば答えられるはずです。応募者の方も、学生や主婦のパート、アルバイトと同程度の時給になるつもりでないと相手にされない恐れがあります。
 さらに後になってから、報酬の振込時に「銀行手数料はご負担下さい」と言って差し引いてあり込む会社や、「報酬算定のための原文文字数、単語数の計算費用を負担してほしい」など説明してくれる会社があります。こういうところとは継続的に取引してくれる翻訳者がいないためか、常に「急募」だったりします。
 


(6)身元証明書の提出
 コピーならばともかく、自治体発行の住民票写しそのものを提出してもらうと言われたら、十分に注意して下さい。偽名で登録する人の会社側の対策だとしても、悪用が可能です。他の方法ではだめなのか確認しましょう。疑問に感じて問い合わせると後で、「そのものではなく、コピーを頼んだ」と言い訳してきた会社がありました。

(7)他の目的での偽の求人情報
 求人を出しているが、応募してトライアルを受けると、「実力不足だが、当社の通信講座を受けて成績が良くなれば登録する」と言ってくる会社があるようです。文字通りに考えてよい会社もあるかとは思いますが、登録されても仕事を回してくれるとは限らないこと、更には始めから翻訳講座受講に引き込むための求人広告の場合があるしらいので注意して下さい。
 また求人に応募するとき、お金を取られるという会社があります。トライアル受験のために翻訳会社にお金を払うというのは、おかしな話です。翻訳者に自分の能力を知ってもらう検定試験という形なら分かるのですが、翻訳者募集としておいて応募者からお金を取る会社は避けるのが賢明かもしれません。

<最近の求人広告をみての感想>
・高価な翻訳支援ソフトを自腹で用意しろと要求されても、元手を十分上回る収入が保証されてないのに無理だと思ってしまいます。仕事が少々あったとしても訳文単価は安くなる傾向があるので、やはりこういう求人には応募を控えてしまいます。
・同じ会社がある求人サイトで募集広告を出し、少し経つと別の求人サイトで募集広告を出すという例が続きました。あちこちに募集広告を出す前に、翻訳者に対する対応を考え直せばよいのにと思いながら、求人広告を眺めています。


 
<翻訳会社の皆様へ>

ビジネスパートナーとして翻訳者を丁重に扱わない場合、翻訳会社の不利益になります。不誠実な会社には丁寧な仕事をする意欲は低下します。顧客には迷惑がかかり、翻訳会社の評判、業績は落ちます。
逆に誠意のある対応をし、仕事の内容に見合う労働代価を支払えば、翻訳者は丁寧な仕事をし、顧客も満足し、翻訳会社の信頼度は上昇します。すなわち、皆が喜ぶ結果になります。よい翻訳者が集まらない、新規顧客が定着しないなどでお困りの会社は一度翻訳者への対応を考えなおしてみてはどうでしょうか。