医学専門 校閲者・翻訳者/医療啓蒙

医学論文英文校正・翻訳サンプル 実情


 翻訳会社や英文校正会社のホームページで医学論文などの訳文見本、英文校正見本を見るときは、以下の点に注意してご覧ください。

医学分野に強いあるいは得意な翻訳会社、英文校正会社かを作業見本から見分ける

 一部の翻訳会社では医学・薬学の訳文見本(翻訳サンプル)をホームページ上で出しています。和文英訳ではnative speakerの校正前後の訳文を示している会社もあります。英文校正会社でも校正見本を出している例が多いです。これらをみていると、必ずしもよい英文になっていません。ここでは作業の質を判断する上で、どんな点に注意して見本の英文をみていくとよいか、若干考えてみます。


● It is 〜that---という構文
 実際に英文医学雑誌でも使われる構文で、必ずしも悪い作文方法とは言えません。ただし仮主語を用いずに"Natably,---"あるいは"Not surprisingly,----"のような副詞句で書き始めれば簡潔明瞭な作文になる場合は多くあります。人によっては仮主語による作文を嫌います。文脈にもよりますが、仮主語に依存して多用していないかは注意してみましょう。

●ofの使用頻度
 日本語でも「〜の---」という言い方をしすぎると文章の美観を損ねる場合があります。英語でも他の表現方法ができるのに"〜of ----"という表現に頼っているときには、翻訳者や英文校正者の能力に問題があるかもしれません。

●主語部分が長すぎないか
 英語では主語の後に動詞が来ますが、主語部分が長すぎると英文として美しくありません。しかし訳文や英文校正の見本の中には主語部分が長くてすぐには動詞が出てこない文例があります。主語部分を簡単に短くできるかどうか注意してみましょう。

●developという単語の使い方
 人+develop+症状、疾患という作文方法は実際には見られます。しかし「症状、疾患+develop」が医学論文では厳密には適切な作文方法です。この点については何度か他の人が指摘しているのを読んだ経験があります。その人達も「実際には人を主語にした文を見かける」という反論を受けているようです。ただ私が購読している英文誌では、人を主語にした上記作文方法は避けているようです。
 
● case とpatientの使い分け
 日本語では「患者」と「症例」が同義語になっている場合が多く、英訳見本では誤りが多いです。英文を読んでいると「提示症例(case)の患者(patient)」という言い方を見かけることがありますが、caseは具体的患者例を示します。「副作用については3症例で悪心があり」というようなときには、日本語では「症例」でも英語ではpatientを使います。caseとpatientの区別ができていない会社は多いです。

●代名詞を使う能力があるか
 日本語では「膵癌の死亡率は胃がんの死亡率に比べて・・・」という作文をしても特に不自然ではありません。しかし英語では「膵癌の死亡率は胃癌の"それ"に比して」というように、代名詞を使った作文をする傾向があります。こういう作文技法がしっかりとできている会社が注意しましょう。

●口語的な単語使用
 見本を見回っていると、「その単語、会話ならともかく医学論文などでは俗語的な感じがしないか?」と思うことがあります。例えば原著論文を読んでいるとgoodという単語は、あまりみかけません。恐らく類義語のfavarableや idealなどの単語が使われているのでしょう。

●despite+代名詞=「それにもかかわらず」?
このような作文を読むと、「NonethelessやNeverthelessという単語があるのに・・・」と私などは思ってしまいます。ただ実際には上記のような作文も見られるので、時代変化はあるのかもしれません。

●アラビア数字かsepell outか
 調査結果や計測値などでは一桁の数字でもアラビア数字で記述するのにしても、「三つの要因」というときにはthreeとspell outするのではないかと思います。こういうときにまでアラビア数字が使われていると私は違和感を感じますが、皆様はどうでしょうか。勿論、細かな点では編集方針が違うので一概には言えないのは承知しています。

●日本語を意識過ぎた英作文
 「検討を試みた」は「検討した」という意味なのに「試みた」まで訳している英訳見本を何度か見た覚えがあります。英語医学論文の指南書で読んだことがあるのですが、「試みた」と英文で書くと読み手は「試みただけか」という突っ込みを入れたくなるらしいです。

●文章を短くできるかを確認
 これも日本語で書く内容を考えてから英作文をする影響か、なくても意味が変わらない語句が入っている作文がみられます。英語の医学論文では簡潔明瞭さが重視されます。とにかく短い英文にすることを意識して査読をする先生もいるようです。「この単語はなくてもよいか」という視点でも作業見本を確認してみましょう。

●as compared toという作文に注意
 俗語または口語では「〜に比して」という意味では上記のように"to"という前置詞を使うことはあります。しかし医学論文などはas compared withのようにwithという前置詞を使います。

●調査結果を過去形で書いているか
 日本語原文が現在形であったためか、英文では過去形で書くべきところを現在形で書いている例がありました。

●専門用語をきちんと調べているか
 実例ではなく類似例として示しますが、「腎炎」という語の英訳で"inflammation of kidney"としているような例がありました。調べればすぐに分かる専門用語を調べずにいい加減に訳している会社があります。


 ほんの一例で総論的な内容だけですが、翻訳会社や英文校正会社の作業見本の質を判断する際に参考になれば幸いです。

 日本語と英語では当然ながら文の作りが違うので、日本語を単純に英語に置き換えても不自然な作文になってしまうことが多いです。そもそも単純な直訳ができないことは多いです。この点についても念頭に置いて和文英訳や英文校正結果を判断するようにしてください。



フリーランスの超優秀な(?)医療翻訳者、医学書校正者です。私への連絡はこちらからお願いします。